スポンサーリンク

ペットボトルロケット 秋水1号(S1ロケット)は日本国内でのアマチュアロケットに関する課題を解決するべく開発が進められている、高性能ペットボトルロケットです。

ロケット開発を学ぶ際に、学生や初心者が手軽に選択できる教材として「モデルロケット」というものがあります。モデルロケットはエンジンに火薬を用いる固体燃料ロケットであり、日本や欧米を含めた各国の教育機関や研究機関で使用されていますが、日本国内においては本場アメリカほど普及していません。

その理由の一つとして、ロケット打ち上げに適した広い土地が日本国内で確保しにくい、という問題があります。JAXAなどが打ち上げる本物のロケットの射場としては日本は世界的にも優位な地理的条件を有していますが(東と南方向に海が広がっている)、アマチュアが打ち上げる小型ロケットに関しては、安全に打ち上げられる広い土地を確保することが難しいです。日本でも高度200メートル以下であれば河川敷や公園等で打ち上げることができますが、本場のアメリカで打ち上げられているような高度数十kmまで達するようなモデルロケットをアマチュアが打ち上げることはほぼ不可能です。

理由の二つ目として、日本国内では法的制約が強いため大型ロケットエンジンの使用が難しい、という問題があります。日本ではそもそも火薬取締法、航空法による制限が厳しいため、火薬エンジンに関してアメリカほど自由に使用する事ができません。

上記のような理由から、日本国内ではモデルロケットを学生が思う存分活用できる環境が用意しづらいのです。今後、世界的にも宇宙産業の重要性が増してくる状況において、宇宙関連技術に興味のある学生が存分に学ぶことができる教材が存在しないという事は大きな問題だと思います。

そこで相楽製作所では火薬エンジンを使用したモデルロケットに代わる、安全でどこでも使用可能であり、かつ大学生レベルの研究にも十分耐えうるような教材としての、高性能ペットボトルロケット(水ロケット)の開発に着手しました。

ロケット技術において、高度やエンジン出力の向上は確かに重要な課題ですが、ロケットを構成する要素技術はそれだけではありません。ロケットをいかに制御し、狙った場所に打ち上げるかといった誘導制御やそれを支える姿勢制御、慣性航法などの技術も重要な要素となります。

前述したとおり日本国内で高度を追求する方向性でのロケット研究は非常に難易度が高くなります。それならばロケットの「制御」に関する課題に取り組めるような教材を開発することで、学生たちにロケット研究の機会を提供できるのではないかと思いました。そこで発案したのが高性能ペットボトルロケット 秋水1号(S1ロケット)です。

秋水1号(S1ロケット)の概略図を以下に示します。

秋水1号はもともと、相楽製作所がDERCロケットサークルさんと共同でモデルロケット開発をしていた際に、安価に再利用可能な電装技術試験機が作れないか、といった発想から開発がスタートしました。

 

モデルロケットは火薬などの固体燃料エンジンを使用することから、エンジン本体は使い捨てとなります。打ち上げ試験の回数分ロケットエンジンを購入しなければならないため、資金的な問題から打ち上げ回数には制約が出てきます。

ロケット本体の試験においては固体燃料エンジンを使用する必要がありますが、電装関連の要素技術、例えば離陸検出、自由落下検出、飛行データ収集、慣性航法などの試験では必ずしも本体がモデルロケットである必要はありません。そこで再利用可能な電装試験機としてのペットボトルロケットの開発がスタートしました。

実際に開発を始めると、従来のペットボトルロケットにはいくつか使いにくい点があることに気付きました。まず、一般的なペットボトルロケットは発射の瞬間に爆発的に推進力が発生し、一瞬で圧縮空気のエネルギーを使い切ってしまいます。その後ロケットは惰性で飛行を続けますが、全体の飛行時間に対して水噴射で推進力を発生させている時間がとても短いのです。

ペットボトルロケットにおいて、水噴射で推進力が発生している期間はペットボトルロケットを実際の小型ロケットのモデルとして見ることができます。しかし、推進力を使い切った後の惰性で飛んでいる期間はほぼ大砲の弾と同じです。

一般論として、ペットボトルロケットをできるだけ遠くまで飛ばすことを目的とする場合は、発射直後の短期間にロケットを加速させてしまった方が有利なようです。できるだけ大きな運動エネルギーをロケット本体に蓄積させるために、あえて粘土などで重りを付けるという手法も一般的に用いられているようです。

しかし、ロケット本体がどのように加速し推進力を得るのか、どのような姿勢で飛行しているのか、このようなことを目視で確認し、学生の学びや興味を喚起することを目的とする場合は、ロケットの加速が目視できないほど速いことは問題ですし、TVC(Thrust Vector Control)や慣性航法など、機体の姿勢制御や誘導制御の実験を行う際にもエンジンの燃焼時間(水噴射の持続時間)や滞空時間はできるだけ長い方が望ましいです。

秋水1号(S1ロケット)は教材としての使いやすさに重点を置いているため、エンジンの燃焼時間(水噴射の持続時間)はできるだけ長くしたいところです。

ペットボトルロケットの水噴射時間を長くすること自体はノズル径を小さくすることで簡単に実現が可能です。しかし、発射直後のペットボトルロケットには水タンクに満タンの水が入っているため、小さなノズル径ではロケット本体を持ち上げるだけの十分な推力を発生させることができません。

上記のような課題に対応する技術として、ペットボトルロケットのデュアルスラスト化という試みがあります。ロケット本体の加速段階(ブースト期間)では十分な推力が得られるよう大口径ノズルを使用し、ロケット本体が十分加速した後の持続飛行の段階では小口径ノズルに切り替えるという手法です。

http://www.aircommandrockets.com/day140.htm

上記のアイデアでは電装試験機として理想的なエンジン特性を得られると思われますが、構造がやや複雑であり、制作難易度が上がる割にはノズル径の変更も難しく、もう少し良い方法がないものかと検討を進めた結果、以下のような機構を用いてノズル径を自由に変えられる仕組みを思いつきました。

上記のような機構をアイリス機構と言います。カメラの絞りなどに使用されている機構なのですが、これをバルブに応用したアイリスバルブというものがあります。

https://www.nitto-kinzoku.jp/shop/g/gMFV-100A-F/

上記のようなバルブを使ってノズル径を自由に変更できるようにすれば、推力調整が可能なペットボトルロケットが作れそうです。

スポンサーリンク

しかし、このようなバルブで高い気密性を実現することは難しく、このバルブのみで圧縮空気の圧力に耐えることはできないと考えました。そこで、空気タンクと水タンクの間にもう一つ電磁バルブを追加し、このバルブが開くまでは水タンクに圧力がかからないように工夫することにします。打ち上げの瞬間に空気タンクのバルブと水タンクのアイリスバルブが同時に開き、エンジンが始動するという仕組みです。

2024年3月現在、秋水1号(S1ロケット)はまだ開発途中です。打ち上げに成功したらまた本サイトにて紹介します。

【2024年5月3日追記】推力調整用のアイリスバルブの一部を公開しました。

このアイリスバルブのみで水漏れを完全に遮断することは難しいので、実際には以下のような薄いゴムシートを挟む構造にします。ゴムシートはゴム手袋の中指部分を切り取ったものを使っています。

 

【2024年5月13日追記】可動ノズルの動作テストの様子を公開しました。マイコンからサーボモータを制御し、ジンバルの動作を確認しています。

 

 

【2024年5月17日追記】パラシュート開放機構のテストの様子を公開しました。信号を受けてから3秒後にフェアリングが開いてパラシュートを放出します。

 

 

【2024年5月21日追記】ペットボトルロケットのタンク容量を増やすために複数のペットボトルを連結させることはよくあると思うのですが、このような加工を高い気密性を持って実現することは結構難しいです。当初は3Dプリンターを使って2つ穴のペットボトルキャップを作成していました。このような部品を開発できればペットボトルロケットのタンク容量増設が簡単に行えるようになると考えたからです。

しかし、どのような形状をとっても気密性を高めることができず、空気漏れが発生してしまいます。一般的な熱溶解積層方式の3Dプリンターでは表面に積層痕が発生するため、そこから空気が漏れてしまいます。

表面の積層痕が出にくい光造形方式の3Dプリンターを使う事である程度は空気漏れを防ぐことができるようになりましたが、タンク内の圧力が高くなるとどうしても僅かな空気漏れが起きてしまっていました。

市販されている部品で流用できるものも探したのですが、ゴム栓はなぜか2穴で6号サイズ(ペットボトルの適合サイズ)のものが無く。その他、2つの口を持つボトルキャップのような部品もあるのですが、こちらは特殊な用途のものなのか、価格が非常に高くてとてもペットボトルロケットに使用できるようなものではありませんでした。

上記の理由でペットボトルの連結方法については長い間悩み続けていたのですが、ふとした瞬間に「1つ穴のゴム栓にエアチューブを接続し、ボトルの外側で分岐させればよい。」という事に気づきました。そこで作成したのが以下の連結具です。簡単に作成できてタンク内の圧力が上がっても空気漏れが起きません。ゴム栓が外れないように固定するボトルキャップは3Dプリンターで作成しています。

 

 

【2024年6月11日追記】エアタンク用バルブの動作実験の様子を公開しました。このバルブには当初、一般的な電磁バルブを使用する予定でしたが、安価に入手可能な電磁バルブは重く、また12V電源で駆動するものしか入手できなかったので、小型の機械式バルブをサーボモータで開閉する方法に切り替えました。

 

【2024年6月22日追記】第1号試験機の動作実験の様子を公開しました。1号試験機はとにかく全体の機能を完成させることを優先した継ぎ接ぎの機体でしたので、軽量化への対策が十分ではなく、機体重量が重過ぎたために20㎝程度機体を浮き上がらせるだけでエンジンのエネルギーを使い切ってしまいました。

最終的な機体重量は約1170g(水タンクが空の状態で)で、空気タンクの圧縮空気は500kPaまで上げました。水タンクの容量は1.5リットル、空気タンクの容量は3リットル(1.5リットルのペットボトル2本を連結)です。

アイリスバルブによる推力調整は機能したものの、1回目のエンジン動作実験の様子を見て、エンジンの推力に全く余裕が無いことが明らかに見えましたので、その場で推力調整機能はOFFにし、最初から最後まで水タンクバルブは全開の状態で使っています。1.5リットルの水タンクは1秒程度で空になり、推力を維持できたのはごくわずかな時間です。

水タンクバルブ(アイリスバルブ)は噴射口の口径を約14mm~0mmの範囲で変えることができます。(全開の状態が直径約14mmの状態です。)

第一号試験機には同志社大学DERCロケットサークルさんと共同開発したモデルロケット用の姿勢制御システムをほぼそのまま移植しています。わずかな時間ですが、動画では最初画面右側に傾いて浮き上がった機体が反対方向へ姿勢を戻す動きが確認できました。

スポンサーリンク