この若干の傾きを持った区間でベース電位を微細に動かすと、そのベース電位に大体比例した形でベース電流が増減します。上図を見ても分かる通り、ベース・エミッタ間の電圧と電流の関係は決して比例の関係ではないのですが(非線形特性)、動かすベース電位の範囲をものすごく小さい電圧範囲に限定してしまえば、大体はベース電流がベース電圧に比例して変化しているように見えるだろう、(線型性があるように見えるだろう)だからこの部分は比例するということにしてしまって単純化して扱おう、ということになっているのです。(線形近似という考え方です。)
ですのでベース電位の動く範囲が線型近似できる範囲から大きく外れてしまうと増幅した後の波形の歪みが大きくなってしまいます。
ここまでの話はあまりすっきりとしない内容ですが、この曖昧な部分の納得ができればあとは簡単です。コレクタ・エミッタ間にはベース電流に直流電流増幅率hFEをかけた分だけの電流が流れるので、コレクタ側の電流もベース電位の微小な変化に連動して大きくなったり小さくなったりします。コレクタ・エミッタ間に大きな電源を接続しておくと、ベースに入力された微細な信号波形と同じ形の変化が大きな電源の方にも起こせるので、小さな信号の変化をそのままの形で大きな信号の変化としてコピーすることができるのです。これをトランジスタの増幅作用と呼んでいます。
この「増幅」という言葉から連想されるイメージによってトランジスタに入力された信号がそのまま大きくなって出力されるように考えてしまいがちなのですが、最初にこのようなイメージを持ってしまうと実際のトランジスタの動作を理解する妨げになってしまいます。「増幅」というよりは「複写」とか「拡大コピー」とかの方が実際の動作に近いです。