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トランジスタのhFEという数値は周辺温度の影響などを受けることで値が変化してしまいます。固定バイアス回路ではhFEが変化するとコレクタ電流も変化してしまうので(IC = hFE × IB)設計通りの出力が得られなくなってしまうことがあります。自己バイアス回路はhFEの変動をフィードバックしてバイアス電流IBを調整する機能があるのでhFEの変動に強い回路を実現することができます。

自己バイアス回路

固定バイアス回路との違いはベースにバイアス電流を流すための抵抗RBが、電源ではなく負荷抵抗RLの下に接続されているという点です。なぜこのような接続にするとhFEの変動に対応できるようになるのかについて以下に説明します。

ですがその前にコレクタ電流と負荷抵抗の設計について少し説明をします。

増幅回路設計の際に、まずはコレクタ電流をいくら流すかということから決めていきます。コレクタ電流の値はトランジスタの周波数特性や雑音特性に影響を与えます。周波数特性が最も良くなる電流値と雑音特性が最も良くなる電流値は異なるので本格的な回路設計では回路に要求される仕様を検討しながら慎重にコレクタ電流を決定していく必要がありますが、このサイトではそのレベルの問題は扱わないので、ここではとりあえず、適当な値としてコレクタ電流を2mA流すとします。

コレクタ電流が決まったら次は負荷抵抗の値を決めます。自己バイアス回路では入力信号0の状態、バイアス電圧だけがベースにかかっている状態で電源電圧の1/2から2/3程度の電圧降下が負荷抵抗で発生するようにするのが良いとされています。(RLに現れる増幅後の出力波形が、上下に振幅する余裕を確保するために、無入力時のIC × RL は電源電圧の真ん中ぐらいに設定します。このことを「動作点」を決める。と言います。)電源電圧は大抵の場合、設計前に決められていることも多いと思いますが、ここでは6Vの電源電圧が与えられているとします。

コレクタ電流を2mA流すことに決めて6Vの電源が与えられており、負荷抵抗での電圧降下を電源電圧の1/2に設定するとすれば、抵抗値は以下のように算出されます。

自己バイアス回路-2

負荷抵抗 RL = ( 6V / 2 ) / 2mA = 1.5 [kΩ]

この回路では入力信号0の状態で負荷抵抗での電圧降下が3Vであり、何らかの微少な信号波形がベースに入力された場合には、電源電圧の1/2の電位を中心に出力波形が振幅します。

ここで再びバイアス電流の話に戻ります。入力信号0の状態で負荷抵抗の下側の電位VCは( 電源電圧 – 負荷抵抗RLの電圧降下 ) = 3Vの電位にあります。この電位VCの地点からバイアス電流用の電流を少しだけ取り出してベース端子の方へ流します。ベースに流れる電流は数十μA以下ととても小さいので、2mAが流れるコレクタ側の回路には影響を与えないものとして考えます。

自己バイアス回路-3

するとベースの抵抗RBとベース・エミッタ間電流IBの関係は以下のように表せます。

ベース・エミッタ間電流 IB = ( VC – 立上り電圧VBE ) / 抵抗RB

そしてこの式が自己バイアス回路がhFEの変動に対応できる理由を表しています。この式の中のVCの部分は( 電源電圧 – 負荷抵抗RLの電圧降下 ) で表すことができました。そして負荷抵抗RLの電圧降下は( コレクタ電流IC × 負荷抵抗RL )で表すことができます。

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hFEが何らかの要因で大きくなったと仮定すると(IC = hFE × IB)の関係からコレクタ電流ICが増加します。コレクタ電流ICが増加すると負荷抵抗RLの電圧降下 = ( コレクタ電流IC × 負荷抵抗RL )も増加します。負荷抵抗RLの電圧降下が増加すると負荷抵抗の下側の電位VC = ( 電源電圧 – 負荷抵抗RLの電圧降下 )は下がります。負荷抵抗の下側の電位VCが下がるとベース・エミッタ間電流 IB = (( VC – 立上り電圧VBE ) / 抵抗RB)は小さくなります。ベース・エミッタ間電流 IBが小さくなるとコレクタ電流IC = ( hFE × IB )が減少し、hFEの変動に伴うコレクタ電流ICの増加が抑えられます。

自己バイアス回路-4

何らかの要因でコレクタ電流が変動したとしても、それによって負荷抵抗下側の電位VCが上下することでコレクタ電流の変動を打ち消す方向に作用する。これが自己バイアス回路がフィードバックによってhFEの変動の影響(コレクタ電流の変動)を抑える仕組みです。

なお、この回路の電圧増幅度は以下の式で表されます。

電圧増幅度 Av = hFE × RL / hie

RL:負荷抵抗

hie:トランジスタの入力インピーダンス(入力抵抗)

ただ、この電圧増幅度の式にはhieという求めにくいパラメータが使われています。実際に電圧増幅度を求めたい場合は以下の近似式を使った方が便利です。

電圧増幅度 Av = 相互コンダクタンス gm × 負荷抵抗 RL

       = ( コレクタ電流 IC / 熱電圧 VT ) × 負荷抵抗 RL

       = コレクタ電流 IC × 負荷抵抗 RL / 26mV

VT:熱電圧≒( 26mV )

熱電圧 VT = k × T / q ≒ 26mV

k:ボルツマン定数 1.3806488×10-23

T:絶対温度 300[K]

q:電子電荷 1.602177×10-19

電圧増幅度に関して、詳しくはこちらのページをご覧ください。

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