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この記事は電子回路を初めて学ぶ方に向けて電流帰還バイアス回路の基礎的な動作を紹介する目的で書かれています。電流帰還バイアス回路は抵抗の数が多いので、最初に習うときにはとても難しいと感じる方が多いと思うのですが、この回路はいくつかの要素を近似的に簡略化して扱う事ができるので、その点さえ知ってもらえれば計算がとても簡単になりますし、回路動作の理解もとても楽になると思います。

電流帰還バイアス回路は”トランジスタの持つhFEの値とはほぼ関係なく回路設計ができる”という特長を持ったとても便利な回路です。(これは固定バイアス回路の計算式を見てもらうと分かりやすいです。固定バイアス回路では抵抗の計算式の中にhFEが出てきます。)hFEの値は製造時のバラツキも大きく、周辺温度などの使用環境によっても変動してしまうため、hFEの値に依存せずに回路設計ができるという電流帰還バイアス回路の特長は回路設計者にとってとても優しいです。

電流帰還バイアス回路

一見すると抵抗の数が多くて難しく見えるのですが、この回路にはいくつか近似して考えることができる部分があるので、まずはそれを先にお伝えできればと思います。

まずベースの手前についている抵抗R1、R2についてですが、この2つの抵抗には”ベースへ流れていく電流よりも十分大きな電流を流す”という使い方をすることで、R1、R2の接続点からベース方向へ流れていく電流を無視して考えることができるようになります。これが電流帰還バイアス回路を使うときの1つ目の”お約束”のようなもので、この条件を守っている限り、ベースへの分流を考えなくてもよくなるのでR1、R2の部分は単純な抵抗分圧回路として扱う事ができるようになります。

R1、R2の2つの抵抗が単純な抵抗分圧回路になってしまうと、この2つの分圧抵抗の比率を変えることによってベースの電位を自由に決定することができるようになります。ベースの電位(以後VBと表記します。)を設定できるととても良いことがあるのですが、それをこれから説明します。

この回路ではエミッタの直下に抵抗REというのが接続されているのですが、この抵抗REが電流帰還バイアス回路では非常に重要な役割を果たします。先ほどR1抵抗とR2抵抗の分圧の比によってベース電位を自由に設定できるという話をしましたが、この抵抗分圧によって設定されたベース電位をVBとしますと、ベース・エミッタ間電圧VBEと抵抗REでの電圧降下VREは以下のような関係となります。

ベース電位 VB = ベース・エミッタ間電圧 VBE + 抵抗REの電圧降下 VRE

ここでVBEはトランジスタがONである限り必ず立上り電圧0.7V付近に落ち着くという決まりがありますので(電流帰還バイアス回路を使うときの2つ目の”お約束”です。)、この考え方を適用するとベース電位VBを設定するということは、そのまま抵抗REでの電圧降下VREを設定するということになります。

ベース電位 VB = 立上り電圧0.7V + 抵抗REの電圧降下 VRE

これは回路設計をするにあたってとても都合の良い状態です。なぜならR1、R2の抵抗値によってベース電位VBおよび抵抗REでの電圧降下VREを設定でき、さらに抵抗値REを決めることによって直接コレクタ電流の値を決定することができるからです。コレクタ電流を決定するときに一々バラツキの大きいhFEの値からベース電流を逆算したりする必要はなく、どのようなhFEを持つトランジスタでも同じようにR1、R2、REの3つの抵抗の値だけでコレクタ電流ICの値を決めることができるようになります。

コレクタ電流 IC = 抵抗REの電圧降下 VRE / 抵抗RE

         = ( ベース電位 VB – 0.7 ) / 抵抗RE

(抵抗REにはコレクタ電流だけではなくってベース電流も合流してくるのだから、上の式をコレクタ電流の式とは言えないんじゃないの?と考えた方、実はその通りなのですが、ここでも”ベース電流は無視できるほど小さい”という理由で近似して考えます。電流帰還バイアス回路を使うときの3つ目の”お約束”です。)

増幅器としての周波数特性、雑音特性、温度変化に対する安定度などを考慮した実用的な電流帰還バイアス回路を設計するにはこの他にもいろいろな要素が絡んでくるのですが、上記のような近似的に扱える部分があることを知っておくだけで、電流帰還バイアス回路の基本的な動作を理解する助けになると思います。

(このあたりの基礎的なトランジスタ回路動作をさらにじっくり学びたい方は、CQ出版社「定本 トランジスタ回路の設計」ISBN4-7898-3048-9がおすすめです。)

なお、上に書いた”VBEはトランジスタがONである限り必ず立上り電圧0.7V付近に落ち着く”という決まり事については、電流帰還バイアス回路に限らず、トランジスタ回路を考えるときに常に登場する考え方ですので、電子工学を学び始めた最初のころは「とりあえずそういうもの」として覚えてしまって構わないと思います。

ただ、よくよく”なぜVBEは0.7V付近に落ち着くのか?”ということを考えていくと少し複雑な話になってきます。私は学生のころ、この仕組みを理解するために以下のような思考実験を行いました。この仕組みの要点は”フィードバック”という概念にあり、電流帰還バイアス回路の”帰還”というのもこの”フィードバック”の意味になります。フィードバックとは出力結果によって入力値に修正を加え、出力結果が常に一定の状態を保つように自動調整するような機能のことを言います。

電流帰還バイアス回路の動作をイメージするための思考実験

最初にベースに電圧がかかっていない状態のトランジスタに以下のような1kΩの抵抗REが接続されているとします。電源電圧は6Vとします。

電流帰還バイアス回路-エミッタ抵抗-1

最初の段階ではトランジスタはOFFの状態なので抵抗REには電流ICが流れていません。なのでREでの電圧降下VREも0の状態です。

 

次の瞬間にベースへ3Vの電圧がかけられたとします。ベースにかけられた電圧にトランジスタが反応してコレクタ電流ICが流れ始めるまでにわずかなタイムラグがあるとして考えます。

電圧がかけられたちょうどその瞬間にはまだ抵抗REに電流ICが流れ始めていないので電圧降下VREは0です。この状態ではベース電位の3Vが全てがベース・エミッタ間にかかってくるのでトランジスタは急激にONの状態になろうとします。

電流帰還バイアス回路-エミッタ抵抗-2

 

トランジスタは完全にONの状態なので電源から抵抗REへ急激に電流が流れ込み、電圧降下VREも急上昇して行きます。

電流帰還バイアス回路-エミッタ抵抗-3

 

抵抗REでの電圧降下VREが上昇してくるとトランジスタのベース・エミッタ間はベース電位3VとVREに挟まれて急激に小さくなって行きます。そしてベース電位とVREの差が立上り電圧0.7Vを下回った時点でトランジスタはOFFに切り替わります。

電流帰還バイアス回路-エミッタ抵抗-4

 

トランジスタがOFFになると抵抗REには電流が流れなくなります。トランジスタがOFFになった瞬間からわずかな時間で電流ICは減少して行きます。

電流帰還バイアス回路-エミッタ抵抗-5

 

電流ICが減少し始めると抵抗REでの電圧降下VREも減少し始めます。

電流帰還バイアス回路-エミッタ抵抗-6

 

電圧降下VREが減少すると再びベース電位とVREの差が開き始めるので、この差が0.7Vを上回った段階でトランジスタがONになります。

電流帰還バイアス回路-エミッタ抵抗-7

 

以降はトランジスタがON状態とOFF状態を繰り返し、だんだんとベース・エミッタ間電圧が0.7Vぐらいになるようなコレクタ電流が流れている状態に落ち着いて行きます。

抵抗REはコレクタ電流が大きくなるとVBEを小さくし、コレクタ電流が小さくなるとVBEを大きくするという、常にコレクタ電流の変化を打ち消す方向に働きます。この働きによってコレクタ電流は一定の値が保たれます。

 

上記の動作はあくまで思考実験なので実際に観測することは難しいと思いますが、このような働きがあるために電流帰還バイアス回路ではhFEに関係なくコレクタ電流を一定の値に維持することができています。

回路が落ち着いた後のトランジスタは、ON状態とOFF状態が常に拮抗した状態で均衡を保っていて、少しでもこの均衡を崩すような要因が現れるとそれを打ち消すように働きます。例え周辺温度の影響でhFEが変化し、コレクタ電流が変化しそうになっても、抵抗REによるフィードバックが機能している限りコレクタ電流は一定の値を維持します。

フィードバックは主に制御工学などでよく出てくる概念で、工学の世界では広く使われている重要な概念です。電流帰還バイアス回路の例ではコレクタ電流を一定の値に維持する目的で使用しましたが、この他にも温度や水位や回転数など、さまざまな物理量を一定の値に制御する目的で使用されます。(参考までに、回転数を一定に制御する例がこちら、回転角度を一定に制御する例がこちらになります。)

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電圧増幅度の計算

電流帰還バイアス回路は電圧増幅度もhFEに関係なく設定することができます。以下に電流帰還バイアス回路の負荷抵抗と電圧増幅度の関係について説明します。

上記の思考実験からも分かる通り、トランジスタのベース・エミッタ間電圧は常に0.7V付近に維持されるようになっています。この状態でベースに微小な信号波形を入力するとベース電位がわずかに上下するその動きに連動して抵抗REの電圧VREも上下します。(なぜならベース・エミッタ間電圧は常に0.7Vに維持され、ベース電位 = ベース・エミッタ間電圧0.7V + 抵抗REの電圧降下VRE であるから。)

抵抗REの電圧が入力信号vin分だけ上下するとコレクタ電流ICの変化量は以下のようになります。

コレクタ電流の変化量 = 入力信号vin / 抵抗RE

コレクタ電流が変動するとその動きに連動して負荷抵抗RLでの電圧降下も大きくなったり小さくなったりします。負荷抵抗RLの直下に設定された出力端子の電位変化量voutは以下のように表すことができます。

出力端子の電位変化量 vout = 負荷抵抗 RL × コレクタ電流の変化量

             =  負荷抵抗 RL × 入力信号 vin / 抵抗 RE

上記の式より電圧増幅度( vout / vin )を以下のように表せることが分かります。

電圧増幅度 vout / vin = 負荷抵抗 RL / 抵抗 RE

上記の式にもhFEは出てきません。電流帰還バイアス回路はバイアス電圧の設計だけでなく電圧増幅度の設計にもhFEを使わずに済むので大変便利な回路です。

ですが抵抗REで電圧降下が発生するとその分出力電位を上下させられる範囲が狭まってしまうので、抵抗REに並列になるようにコンデンサを入れて、交流的に見た時に抵抗REが無かったように見せるというテクニックが良く使われます。このコンデンサのことをバイパスコンデンサと言います。コンデンサは交流信号は素通りさせて直流信号は遮断する特性があるので、バイパスコンデンサを入れても直流で動作しているバイアス回路の設計に影響を与えることはありません。(バイパスコンデンサについて詳しくはこちらのページをご覧ください。)

エミッタのバイパスコンデンサ-0

バイパスコンデンサを抵抗REに入れると交流的には抵抗REが無かったことになるので上記の電圧増幅度の式は使えなくなってしまいます。この場合の電圧増幅度の式は以下のようになります。

電圧増幅度 Av = hFE × RL / hie

RL:負荷抵抗

hie:トランジスタの入力インピーダンス(入力抵抗)

ただ、この電圧増幅度の式にはhieという求めにくいパラメータが使われています。実際に電圧増幅度を求めたい場合は以下の近似式を使った方が便利です。

電圧増幅度 Av = 相互コンダクタンス gm × 負荷抵抗 RL

       = ( コレクタ電流 IC / 熱電圧 VT ) × 負荷抵抗 RL

       = コレクタ電流 IC × 負荷抵抗 RL / 26mV

VT:熱電圧≒( 26mV )

熱電圧 VT = k × T / q ≒ 26mV

k:ボルツマン定数 1.3806488×10-23

T:絶対温度 300[K]

q:電子電荷 1.602177×10-19

電圧増幅度に関して、詳しくはこちらのページをご覧ください。

電流帰還バイアス回路の具体例

最後に電流帰還バイアス回路を使った具体的な回路を見て行きます。ここでは使用するトランジスタのhFEを200、回路の電源電圧を12Vとし、電圧増幅度が5倍になるような増幅器を設計するものとします。

まずはコレクタ電流をいくら流すかということから決めていきます。コレクタ電流の値はトランジスタの周波数特性や雑音特性に影響を与えますが、周波数特性が最も良くなる電流値と雑音特性が最も良くなる電流値は異なります。なので本格的な回路設計では回路に要求される仕様を見ながら慎重にコレクタ電流を決定していく必要がありますが、このサイトではそのレベルの問題は扱わないので、極端な話どのような値にしても構いません。(使用するトランジスタのコレクタ電流の最大定格を超えないかどうかだけは注意する必要があります。)ここではよくある適当な値としてコレクタ電流は2mA流すことにします。

次にエミッタ抵抗REを決めます。抵抗REは周辺温度の変化に対する回路の安定性を決定します。抵抗REは大きいほど回路が安定になりますが、抵抗REを大きくし過ぎると出力端子電圧が上下するときの振幅をあまり大きく取れなくなってしまいます。今回は抵抗REでの電圧降下が大体1Vになるように設定しました。(厳密に設計する場合は使用するトランジスタの温度特性と目標とする安定度から逆算し、REの値を決めて行きます。)先ほどコレクタ電流は2mA流すことに決めましたので、抵抗REの値はRE = 1V / 2mAで500Ωとなります。

今回設計する増幅回路は5倍の電圧増幅度を持たせるため、抵抗REが決まると同時に負荷抵抗RLの値も決まります。電流帰還バイアス回路の電圧増幅度は以下の式で表されるため

電圧増幅度 Av = 負荷抵抗 RL / 抵抗 RE

5倍の増幅度にする場合は負荷抵抗RLをRE×5の2.5kΩに設定します。

RLが2.5kΩ、REが500Ωであるとすると、入力に何も信号が入っていない状態でのトランジスタの出力側は以下のようになっています。

コレクタ損失

上の図でまず確認することはコレクタ損失PCが最大定格以下に収まっているかどうかです。コレクタ損失とはコレクタ・エミッタ間で熱となって失われていく電力損失のことで、コレクタ端子とエミッタ端子の間の電位差VCEにコレクタ電流をかけた値で計算することができます。

コレクタ・エミッタ間の電位差 VCE = 電源電圧 – RLの電圧降下 – REの電圧降下

                 = 12V – (2.5kΩ × 2mA) – (500 × 2mA) = 6[V]

コレクタ損失 PC = コレクタ・エミッタ間の電位差 VCE × コレクタ電流IC

              = 6V × 2mA = 12[mW]

コレクタ損失の最大定格はトランジスタのデータシートなどで確認します。

次に出力端子の最大振幅についても確認します。この回路の場合、出力端子は電源電圧から-5Vの電位を中心に振動することになります。なので上側には5Vまで、下側にはコレクタ・エミッタ間の電位差VCE(6V)分だけ振れる余裕があります。(厳密にはコレクタ・エミッタ間飽和電圧が確保できている必要があります。)出力振幅を最大にするには出力端子の電位を電源電圧とエミッタ電圧のちょうど中間になるように設計すれば良いですが、要求された仕様が満たされているのであれば無理に中間に持ってくる必要はありません。上下どちらかに振幅の幅が足りなかったり、コレクタ損失が大き過ぎたりした場合はコレクタ電流や電源電圧を変えて設計し直します。

次にベース電位を決定するために抵抗R1とR2について見て行きます。抵抗REでの電圧降下を1Vと決めましたのでベース電位は1V + 立上り電圧0.7Vで1.7Vにすれば良いことがわかります。抵抗R1とR2の抵抗分圧でこの1.7Vを作れば良いことがわかりましたが、ベースへ流れ込む電流を十分小さな値として無視できるように、抵抗R1とR2に流れる電流はベース電流から見て十分大きな電流にする必要があります。

コレクタ電流は2mAであると先ほど決定しました。使用するトランジスタのhFEが200ですので、ベースに流れる電流IBはIB = 2mA / 200の、0.01mAということになります。IBに対して大体10倍以上あれば十分大きな電流であると考えられますので、抵抗R1とR2に流れる電流を0.01mA × 10で、0.1mA流すことにします。

電源電圧の12VをR1とR2の抵抗分圧でそれぞれ10.3Vと1.7Vにすれば良いのでR1とR2はそれぞれ以下の抵抗値とすれば良いことがわかります。

R1 = 10.3V / 0.1mA = 103[kΩ]

R2 = 1.7V / 0.1mA = 17[kΩ]

以上で電流帰還バイアス回路を使った5倍の電圧増幅度を持つ増幅器を設計することができました。

電流帰還バイアス回路-2

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