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上のページでトランジスタとは電気的にON/OFFがコントロールできるスイッチのようなデバイスであるという話をしました。トランジスタの持つ3つの端子のうち、「ベース」という端子に電圧をかけて少量の電流が流れるような状態を作ると「コレクタ」という端子から「エミッタ」という端子へ電流が流れる状態になります。(この時、当然ですがコレクタとエミッタの間には電源が接続されている必要があります。電源なしの状態でベースにいくら電流を流しても、コレクタ・エミッタ間に勝手に電流が発生したりすることはありません。)

ON状態のトランジスタ

トランジスタのスイッチ機能の動作イメージ

トランジスタがONになる条件は「ベース」と「エミッタ」の間に0.7V以上の電圧がかかることです。ベースの電位がエミッタを基準にして0.7V高い状態になってベースからエミッタへ電流が流れると、トランジスタがONになり、コレクタからエミッタの方向へ電流を流すことができる状態になります。これはちょうどコレクタとエミッタの間に機械式のスイッチがあって、ベースに流れる電流を検知してスイッチがつながるようなイメージです。ただし、実際の機械式スイッチと違って電流が流せる方向はコレクタからエミッタ方向だけに限られます。

トランジスタの動作イメージ

反対に「ベース」と「エミッタ」間の電圧が0.7Vより低くなるとトランジスタがOFFの状態になります。トランジスタがOFFになるとコレクタとエミッタの間が遮断されて電流が流せなくなります。これはコレクタとエミッタの間にある機械式スイッチが、ベースに流れる電流の減少を検知してスイッチが離れた状態になるようなイメージです。

 

基本的には上記のような単純な機能を持っているトランジスタなのですが、実際の回路でスイッチング機能を実現しようとすると少しややこしい問題に直面します。

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スイッチ回路におけるベース抵抗の考え方と計算方法

まずトランジスタのベース端子に0.7Vちょうどの電圧をかけるのが難しいです。0.7Vちょうどの電池などもありませんし、マイコンなどのデジタルICの出力電圧は5Vだったり3.3Vだったりすることが多いです。(抵抗で分圧して0.7Vを作るという発想も良いとは思いますが、ここはある程度お決まりの方法がありますので以下に紹介します。)

0.7V以上でONになるのだから3.3Vでも5Vでも電圧をかけてしまえば良いではないか、と思われるかもしれませんが、ON状態になったベース・エミッタ間の抵抗はとても低くなってしまうので、3.3Vや5Vという高い電圧がかかると大電流が流れてトランジスタが壊れてしまいます。ONになった状態で急に電流が流れ始める特性はダイオードと似ています。というか、トランジスタのベース・エミッタ間はダイオードと同じ構造です。(ルネサスエレクトロニクスの以下のページが参考になります。)

https://www.renesas.com/ja-jp/support/technical-resources/engineer-school/electronic-circuits-02-diodes-transistors-fets.html

実際のデジタルICの出力ピンは大抵「出力インピーダンス」が電池などに比べると高いので、トランジスタを壊すほどの電流が流せないものも多いです。このようなデジタルICの出力ピンにトランジスタのベースを直結しても、トランジスタが壊れる前に出力ピンの電位が下がるのでうまく動作する場合もあります。ただし、電池などが出力する3Vにベースを直結させたりするのは危険です。トランジスタに大電流が流れて燃えてしまいます。「入出力インピーダンス」に関してはこちらのページをご覧ください。

0.7V以上の出力、例えば3.3Vの電圧が出力されるデジタルICの出力ピンによってトランジスタをONさせようとした場合、以下のような考え方でベースの手前に抵抗を入れるようにします。

まずスイッチングに使用するトランジスタのコレクタ・エミッタ間に流す電流を決定します。よくあるのはちょっと明るめのLEDをトランジスタでON/OFFしたい、といった場面でしょうか。例えば順方向電圧3.1Vの白色LEDをトランジスタを経由してON/OFF制御したいとしましょう。LEDには30mAの電流を流して光らせたいとします。電源電圧を5VとするとLEDと直列に入れる抵抗値は以下の計算式によって約63Ωということになります。

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抵抗 R2 = (5 – 3.1)V / 30mA

 

トランジスタのLED制御回路

 

LEDの使い方に関してはこちらのページをご覧ください。

この時、ベースに入れる抵抗値R1をどのようにして決めれば良いかということですが、まずコレクタ・エミッタ間に30mAの電流を流すためにはベース・エミッタ間にいくらの電流を流せば良いかを考えます。この時の計算に必要なのがトランジスタのhFE(直流電流増幅率)という数値です。

トランジスタのhFEはデータシートなどで調べます。またデジタルテスターの中にはhFE測定機能が付いているものもあり、実測して確かめることもできます。

トランジスタのhFEが分かったら以下の式よりベース・エミッタ間にいくらの電流を流せば良いかが分かります。hFEはベース電流IBとコレクタ電流ICの比なのでコレクタ・エミッタ間に流したい電流値(今回の場合は30mA)をhFEで割ることで、流すべきベース電流IBが求められます。

ベース電流 IB = IC / hFE

例えばhFEが160のトランジスタの場合、上の式からベース電流IBは 30mA / 160 なので188μAということになります。

ここまで分かればR1はLED抵抗の決め方と同じ要領で求めることができます。トランジスタのベース・エミッタ間の立ち上がり電圧VBEは0.7Vで、入力されてくるデジタルICの信号が3.3Vなので

抵抗 R1 = (3.3 – 0.7)V / 188μA

上記の式よりR1は約14kΩである、というように求められます。

しかし、実際にはhFEという数値には個々のトランジスタ毎にかなりのバラツキがある上、使用条件によっても変動しますので上記のようなトランジスタがONになるギリギリの設計では、想定していたよりもhFEが小さくなってしまった時にコレクタ電流ICが足りなくなってしまうことが考えられます。このようなことが無いようにIBの値は少し余裕を持って多めに流しておく必要があります。上記の計算より多めのベース電流を流したからといってコレクタ・エミッタ間に30mAを大きく超える電流が流れるようなことはありません。ベース電流IBに直流電流増幅率hFEをかけた数値が30mAを超えた場合でもコレクタ・エミッタ間に流れる電流の上限はR2抵抗によって決まります。(今回の回路の場合は30mAが上限)

したがってR1抵抗は14kΩより小さい抵抗値であれば良いということになります。とはいえ無駄にベース電流を流すのももったいないので5kΩか10kΩぐらいを入れておくのが適当ではないかと思います。

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